2.1 交付申請書と必要書類のチェック
書類 | 作成・入手のポイント | |
---|---|---|
交付申請書(所定様式) | 最新様式を使用し、事業情報・連絡先・代表者情報を記載 | |
事業実施計画書 | 導入目的・効果(生産性向上・改善等)を示す | |
見積書・仕様書・カタログ | 仕様が分かる資料を添付。価格の妥当性が分かる比較根拠を準備 | |
賃金引上げ計画書 | 事業場内最低賃金の引上げ幅、対象者、実施時期を明記 | |
賃金台帳・出勤簿 | 対象従業員の現行賃金と所定内賃金の内訳が分かるよう整理 | |
就業規則・賃金規程(改定案を含む) | 引上げ後の賃金表・支給基準を規程化し、社内周知の手順を記載 | |
事業所の所在が分かる資料 | 石川県内事業所の住所が確認できる資料を用意(登記事項証明書の写し等) | |
その他 | 直近年度分の概算・確定労働保険料申告書写しなど |
2.2 賃金引上げ計画の作成
計画は「事業場内最低賃金」を基準にします。国が年度ごとに定める引上げ幅の区分に適合させ、対象者の範囲、実施時期を具体化します。第一に、引上げは所定賃金(基本給・定期的に支払われる手当等)で、時間外割増など所定外賃金は除きます。第二に、引上げ後の水準が地域別最低賃金を確実に上回ることを確認します。第三に、実施日、給与反映月を明記して社内合意形成を図ります。さらに、就業規則・賃金規程の改定案(賃金表、等級・号俸、手当の支給基準など)を準備し、内容を共有します。
2.3 賃金台帳と就業規則の整備
賃金台帳は、氏名、賃金計算期間、労働日数・時間、所定賃金の内訳が分かるよう整理し、事業場内最低賃金の判定に必要な「所定内」と「所定外」の区分は明確にします。また引上げ前後の比較を明確にします。
就業規則・賃金規程は、引上げ内容を反映した改定条文と賃金表を用意し、周知の方法(掲示・イントラネット等)と実施日を明記します。常時雇用する労働者が一定数以上の事業場では、過半数代表者の意見聴取と所管の労働基準監督署への届け出が必要となるため、スケジュールを組みましょう。
3.実績報告と支給手続き
交付決定通知を受けた後に実施した賃金引上げおよび設備投資について、期限に従い実績報告を行い、その審査を経て助成額が確定します。以下では、スケジュールの全体像、日々の進捗管理、賃上げ達成の確認方法、実地のチェック観点に沿って解説します。
段階 | 主な内容 | 留意点 | |
---|---|---|---|
1. 事業の完了 | 設備の納品・検収・支払完了、賃金引上げ(事業場内最低賃金の更新)を実施 | 契約・発注・支払・稼働開始の時系列が明確であること | |
2. 実績報告 | 実績報告書・経費明細・証憑・賃金関係書類の提出 | 交付決定通知で示される期限・様式に従う | |
3. 審査 | 内容確認、追加資料の照会対応 | 支払いの実在性・適法性、賃上げ達成の確認 | |
4. 助成額の確定 | 確定通知(不備があれば減額・不交付の判断) | 対象外経費の除外 | |
5. 支給手続き | 支給(請求)書類の提出、口座確認、振込 | 口座名義、通帳写しの提出 |
3.1実施計画と進捗管理のポイント
実績報告の成否は、日々の進捗管理と帳票の整合性で決まります。特に、設備投資の「見積→契約(注文)→納品→検収→請求→支払」という一連の流れを、日付と証憑でひとつずつ裏づけることが重要です。
スケジュール管理では、実施期間の初日と最終日を起点に、発注の締切や賃金規程改定日・周知日・適用日を可視化してください。工事を伴う場合は、現場写真(設置前後・稼働画面・シリアル番号など)の撮影をし、日付が分かる形で保存します。
契約・発注・支払が交付決定日より前であるものは、原則として助成対象外です。見積有効期限や在庫状況により前倒しが生じやすいため、社内承認ルートを短縮し、決定後に速やかに発注できる体制を整えておきましょう。賃金を引き下げた場合なども対象外になることがあります。
3.2賃上げ達成の確認方法
実績報告では、申請時の引上げ幅を満たす形で「事業場内最低賃金」を引き上げ、適用・支払が完了していることを確認・証明します。ここでいう賃金は、地域別最低賃金の考え方に準じ、所定内賃金(基本給や毎月支払われる手当のうち所定内賃金に算入されるもの)を時給換算して判定します。通勤手当・時間外手当・休日手当・深夜手当・臨時の賃金など、最低賃金の対象外とされる賃金は、判定に含めません。
「最も低い賃金の労働者」も引上げ後の事業場内最低賃金以上となっているか、雇用形態(パート・アルバイト・有期・無期)を問わず確認をする必要があります。
3.3他の補助金との併用の可否
原則、同一の経費について他の補助金・助成金と重複して支給を受けることはできません。
4.専門家の活用
4.1社会保険労務士の活用方法
社会保険労務士(社労士)は、専門家として、賃金引上げ計画の設計、就業規則・賃金規程の整備、賃金台帳等の証拠書類の確認、申請書作成および実績報告のチェックまで一連のプロセスを伴走支援できます。最低賃金との関係整理、手当・割増賃金の算入可否、固定残業代の取扱い、パート・有期雇用労働者を含む対象者の選定など、実務でつまずきやすい論点を事前に解消できる点が強みです。
フェーズ | 主要タスク | |
---|---|---|
事前 | 賃金台帳・就業規則・雇用契約書の確認、最低賃金との差分と影響人数算定 | |
計画 | 引上げ額・対象者範囲の設定、設備投資とスケジュールの整合性確認 | |
申請準備 | 申請様式の作成支援、必要書類の整備、不備チェック | |
実施・実績報告 | 賃上げ実施確認、支払証憑、実績報告書の確認 | |
支給 | 支給申請の不備対応、賃金水準維持の運用設計 |
相談時に持参・共有すると良い資料 | 具体例 | 目的・使いどころ |
---|---|---|
賃金関連書類 | 直近6か月の賃金台帳、就業規則・賃金規程、雇用契約書 | 最低賃金との関係、対象者の特定、算入可否や等級・手当設計の検証 |
設備投資の検討資料 | 見積書と相見積、カタログ・仕様書、導入効果のメモ | 生産性向上の根拠整理、対象経費の妥当性・対象外リスクの確認 |
事業・数値資料 | 直近の決算書など | 実施スケジュールの現実性確認 |
スケジュール情報 | 繁忙期・人員配置、改修・入替えの工期、 | 賃上げ実施時期と設備稼働の整合、報告期限 |
予約時には相談の目的(業務改善助成金の申請可否判断、賃上げ案の点検、設備投資の対象性確認など)を明確に伝えると、スムーズです。
5.まとめ
業務改善助成金は厚生労働省の制度で、賃上げと生産性向上投資を同時に進めるのが要点です。補助率・上限、対象経費、申請〜実績報告の要件を満たし、帳票を整備すれば採択・支給となります。早めに相談することが要です。併用可否は制度ごとに事前確認を。最低賃金の改定動向も踏まえ、無理のない計画を行いましょう。